[雪、冬本番(トレースとラッセル)]12/28放送分


 さて、クリスマスも終わりました。皆さん楽しいクリスマスを過ごせたでしょうか? 私は例によって山でのクリスマスでしたが、今週は久々のお休みで、え……、私が言うお休みとは、山に行かない週末やoffの事でして、つまり本当のお休みの事です。なんか変ですけど……。まあ、あまり考えずに番組を進めましょう。

 まあお休みと言っても実はそれなりに用事も若干ありまして、いったい何をするかと言うと、お正月の山登りの準備です。装備のチェックをしたり、共同装備の分担分けを一緒に行くメンバーとしたりで、結構大変な事は大変で、よく考えるとこれはもう大きな意味で山登りが始まっている事と同じわけで、やっぱりお休みでは無いのかな?

 さて、先日の放送の北八ケ岳紹介のところで、トレースもよく着いていて安全、と言うお話をしたのですが、"トレース"って何? と言うご質問がありました。トレースと言うのは人が歩いた跡という意味ですね。雪が降ってある程度の量が積もると登山道は完全に消えて無くなってしまいます。樹林帯の中とか、ある程度周りの雰囲気が分かる場所では、道が消えても、何となく分かるものですが、なんの目印も無い場所ですと、本当に分からなくなってしまうものです。しかし、一定の間隔で登山者が歩いていれば人が歩いた跡、つまりトレースは消えない訳で、道も分かります。また、トレースが何もない深い雪の中をもがきながら進む事をラッセルと言いますが、この言葉は何となく意味が分かるのじゃないかなと思います。電車のラッセル車と同じですね。そのラッセルをした跡がトレースとなります。少し厳しい場所ですと、腰までとか、胸までのラッセルをしなければ前に進まない事もあって、結構大変です。雪質にもよりますが、腰以上のラッセルですと、一人で数分間が限度で、メンバーが順番に交代して行うのですが、それも厳しくなると今度は、ラッセルする人は荷物を置いて、つまり空荷になって、ある程度頑張ってラッセルして進み、2番手の人に交代して、空荷でラッセルしてた人が今度は自分の荷物を取りに戻り、2番手の今度ラッセルする人が今度は荷物を置いて空荷になってラッセルを始めると言うような事を繰り返します。空荷でやるのは楽かもしれないけど、取りに戻るのが大変じゃないかな? と思うかもしれませんが、そんな豪雪の時は、空荷でも進めるのがせいぜい数10メートル。ひどいときは10メートルもいけない時もあります。ですから、荷物を取りに戻って、またメンバーの所に追いつくのもそんなに大変ではないです。私が今まで経験したラッセルで一番思い出に残っているのは、そう、もう10年以上前ですが、北アルプスの白馬岳と言う所に3月の頭に登ったときのラッセルで、そのまま進むと、雪面が頭の上になってしまうほどのドカ雪でして、まず目の前の雪の壁を両手を使って崩して腰くらいまでの空間を作ります。この作業は上半身だけで行いますが、次に両足を使って残りの雪を踏み固めます。そしてよっこいしょと数十センチ進む訳です。その繰り返しですから、一時間繰り返しても数10メートルしか進めません。その時は4名での登山でしたが、一人10分程度で10メートルも進めません。このときはさすがに嫌気がさしてきましたね。その日の晩、雪洞を掘って寝たのですが、夜、雪洞の中で地図を確認したら、一日行動して300メートルも進めなかった事が分かり、ビックリした覚えがあります。
 え〜、そうですね雪洞って分かりますか? 雪に穴を掘って寝る場所の事です。これもメンバーで交代して、2時間ほどかかって作りますが、作り方さえしっかりしていれば快適な穴蔵暮らしができます。問題は入り口に新たな雪が積もったりして生き埋めになってしまう事と、湿度が高くなってしまうともう乾かす手が無いので、食事の支度をする時もなるたけ湯気を出さない工夫とか、着ているものを濡らさないようにすることです。
 入り口の詰まりは、こまめに点検をしたり、別の場所に空気穴を空けたりして対処します。テントのように外気や天候に左右される事が無いので、ちゃんと注意して暮らせば快適です。何しろ、外気温がマイナス20度でも、風速が20メートルでも、雪の中は常に0度近くだし、風の音すら聞こえません。音は殆ど雪の中に消えてしまいますので反響音も無く、話していてもなんか変ですが、静かなのは熟睡を誘います。
 さて、その白馬岳ですが、結局3日間かかって、行程の4分の1も消化できず、途中で下山しましたが、その思い出はこの頭の中に強烈に残っています。

 その山行の最終日、無風快晴のとてもいい天気となって、まあ、たいがい降りる日はいい天気になるのですが……。すごく綺麗な星空を見た記憶があります。山で見る星、しかも冬山で見る星はそれはそれは見事で、宇宙にはこんなにも星があるのかとしばし呆然としてしまうものです。何度見ても、何時間見ててもあきないもので、条件の良いとき、と言うか、ずっと見ていたくてどうしょうもない時に、シュラフをおもてにだして、星空を見ながら寝た事もあります。横になって星空を見ていると、何か世間離れしたと言うか、自分が宇宙の中を漂っているような錯覚を受けます。その漂う宇宙の中で何を考えるかは人それぞれでしょうが、"自分対宇宙"つまり、自分対この世のすべて的な感覚になってジッとただただ遠くを見てしまうのは私だけでしょうか……?
 皆さんもそんな体験してみませんか?

 もう直ぐお正月。今年一年お世話になりました。来年もどうかよろしくお願いします。

 今日はというか、今年はこの辺で……
お餅と雪が大好きな一級遊び人:川名 匡 でした ども


※FMブルー湘南(78.5Hz)"川名 匡の山に遊ぶ"
 <毎週土曜日AM9:40〜9:50>1996.12/28放送分より

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